参考資料

 資料(ガイドライン関連)

ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の診断基準と治療のガイドラインについての文献を紹介します。

*  ヘパリン起因性血小板減少症の診断・治療ガイドライン

http://www.jsth.org/pdf/oyakudachi/202208_19.pdf

わが国におけるヘパリン起因性血小板減少症の診断と治療の標準化を目的として、日本血栓止血学会において作成されました。(血栓止血学会誌 2021:32(6):737-782)

*  Guidelines on the diagnosis and management of heparin-induced thrombocytopenia: second edition.

Watson, H., S. Davidson, D. Keeling, Haemostasis and H. Thrombosis Task Force of the British Committee for Standards in Haematology.

Br J Haematol 159(5): 528-540 (2012)

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/bjh.12059/full

British Committee for Standards in Haematology (BCSH)が、2006年のガイドライン(Keeling et al)に、以後(2006年から2012年)のPubMedEmbaseで検出された情報を加えて作成されたもの。勧奨の要点を下に記載するが、正確な情報のためには原著を参照していただきたい。 

◆ へパリン投与予定患者では、投与前の血小板数を測定する(2C)

◆ 未分画ヘパリン(UFH)を投与された術後患者(産科症例を含む)は、術後4日から14日まで、ないしはヘパリン投与を中止されるまで、23日ごとに血小板数をモニターする(2C

◆ 低分子ヘパリン(LMWH)を投与された人工心肺術後患者では、術後4日から14日まで、ないしはヘパリン投与を中止されるまで、23日ごとに血小板数をモニターする(2C

◆ LMWHを投与された術後患者では、人工心肺術後を除き、血小板数をルーチンとしてモニターする必要はない(2C

◆ 術前100日以内にヘパリンを投与(ないしは少量に暴露)されたことがあり、周術期になんらかのヘパリン製剤(UFHまたはLMWH)を投与された術後(ないしは人工心肺後)患者では、ヘパリン投与開始の24時間後に血小板数を測定する(2C

◆ ヘパリン投与を受けている内科および産科患者では、血小板数をルーチンとしてモニターする必要はない(2C

◆ ヘパリン投与後4日〜14日以内に、血小板数が30%以下に減少、ないしは、新たな血栓・皮膚のアレルギー症状・その他のヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を疑わせる症状が生じた場合は、HITの可能性を考慮して臨床的評価を行う2C

◆ 検査前スコア(4Tsスコア、表1)が低値(3以下)の場合はHITを除外できる(2B

◆ 4Tsスコアが低値でない場合(4以上)は、検査結果が出るまでの間、ヘパリン投与を中止し、代替の抗凝固剤を投与する(1C

◆ 多血小板血漿(PRP)を用いた血小板凝集試験は、感度が低く、勧められない(2C

◆ 洗浄血小板を用いた血小板凝集試験[ヘパリン惹起血小板凝集試験(HIPA)とセロトニン放出試験(SRA]は、PRPを用いた血小板凝集試験より感度が高く、確立された標準検査法であるが、技術を要し、経験豊富な検査室でのみ施行されるべきである(2C

◆ 上記以外の検査室では、高感度の免疫学的測定法を行うべきである。IgGクラスを測定する必要がある。陽性、陰性を単に報告するより、実際の吸光度値、高濃度ヘパリンでの阻害率、陽性反応でのカットオフ値も情報として有用である(1B

◆ HITと診断するにあたっては、臨床医による4Tsスコア、用いられた検査法、酵素免疫測定法ELISA)の定量的な結果、高濃度ヘパリンでの阻害に関する情報が検査後スコアを決定する上で重要である(2B) 

◆ 4Tsスコアが中程度で、パーティクルゲル免疫測定法が陰性の時は、HITは除外できる(2B

◆ 感度の高い免疫学的測定法で陰性の場合は、すべての患者でHITを否定できる(1A

◆ 代替抗凝固剤での治療の危険性と利点については、臨床的判断がなされるべきである(1C

◆ HITが疑われる(4Tsスコアが中等度以上)あるいはHITと確定された患者においては、ヘパリンを中止し代替抗凝固薬での抗凝固療法を行う(1B

◆ LMWHHITの治療に用いるべきではない(1A

◆ ワルファリンは血小板数が正常値に回復するまでは用いるべきではない。ワルファリンが投与される時は、代替抗凝固薬をInternational Normalized RatioINR)が治療目標域に達するまで用いるべきである。アルガトロバンはINRに影響するので、アルガトロバンを用いる最低5日間重複させることが推奨される(1B

◆ 血小板投与は予防的には行わない(1C)が、出血が生じている時は投与してもいい(2C

◆ HITと診断された時にVKAを投与されていた場合は、ビタミンKを静注してビタミンK拮抗薬(VKA)に拮抗させる(2C

◆ 治療用量のダナパロイド投与は、HIT患者の抗凝固療法として適切である(1B

◆ 予防用量のダナパロイド投与は、HITの治療法として推奨されない(1B

◆ 体重90kg以上の患者と腎不全患者(GFR30mL/分)では、ダナパロイドの抗凝固効果についてCalibration曲線を使った抗Xa活性測定でモニターすることが望ましい(2C

◆ APTT比を1.53.0(ただし、APTT 100秒以下)にする量のアルガトロバンの持続投与は、HIT患者の治療において適した抗凝固療法である(1C

◆ 患者をアルガトロバン投与からワルファリンに移行させる場合、アルガトロバン中止前2日以上INRが≧4であることが必要である(2C

◆ フォンダパリヌクスの治療量投与は、HIT患者の治療に用いる抗凝固療法の選択肢ではあるが、認可されていない(2C

◆ 血栓性合併症をきたしたHIT患者では3ヶ月間(1A)、血栓性合併症のないHIT患者では4週間(2C)、治療量の抗凝固療法を続けるべきである

◆ 妊娠中の女性HIT患者では、交差反応のない抗凝固剤を用いるべきである。可能な時はダナパロイドを用いるが、フォンダパリヌクスも考えられる(2C

◆ 抗体が陰性(通常100日以上後に陰性になる)であるHIT既往患者の心臓手術では、他の抗凝固剤は心臓手術での術中使用の評価が不十分なため、UFHを用いる。ただし、術前および術後の抗凝固療法には、UFHLMWH以外の抗凝固剤を用いる(1B

◆ 最近にHITの既往がある、あるいは現在HITである患者が手術を要する時は、可能な時は抗体が陰性になるまで手術を延期する(延期して抗体が陰性化した後の手術時の抗凝固療法は上記の通りである)。直ちに手術を行うことが望ましい時は、ヘパリン以外の抗凝固剤を用いて手術を施行する(1C

◆ 緊急手術が必要な場合の抗凝固剤としては、ビバリルジンを推奨する(2B

◆ HITの既往がある、あるいは現在HITである患者の冠動脈造影や冠動脈インターベンションでは、ビバリルジンの使用を推奨する(2B

*  Treatment and prevention of heparin-induced thrombocytopenia: Antithrombotic Therapy and Prevention of Thrombosis, 9th ed: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines.

Linkins LA1, Dans AL, Moores LK, Bona R, Davidson BL, Schulman S, Crowther M; American College of Chest Physicians.

Chest 2012: 141(2 Suppl): e495S-530S (2012).

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3278058/

アメリカ胸部専門医学会が制定したHITの治療と予防のためのガイドライン。推奨点を列記するが、これも正確な情報のためには原著を参照していただきたい。

2.1.1.
ヘパリンを投与されている患者で臨床医がHITの確率が1%以上であると考えるときは、ヘパリン投与開始後4日から14日まで、ないしはヘパリン投与を中止されるまで、23日ごとに血小板数をモニターする(2C

2.1.2.
ヘパリンを投与されている患者で臨床医がHITの確率が1%以下であると考えるときは、血小板数はモニターしない(2C

3.1.
血栓症を合併したHIT患者(HITT)では、ヘパリンや低分子ヘパリン(LMWH)を継続したり、ビタミンK拮抗剤(VKA)を開始/持続するよりも、ヘパリン以外の抗凝固剤、特にレピルジン、アルガトロバン、ダナパロイドを用いることを推奨する(1C

3.2.1.
腎機能が正常なHITTでは、アルガトロバン、レピルジン、ダナパロイドを他の非ヘパリン抗凝固剤よりも推奨する(2C

3.2.2.
腎不全があるHITTでは、アルガトロバンを他の非ヘパリン抗凝固剤よりも推奨する(2C

3.3.
血小板減少が顕著なHITでは、出血している時と出血の危険性が高い侵襲的処置時にのみ、血小板輸血を推奨する。

3.4.1.
HIT
が強く疑われるもしくは確定診断されている患者では、血小板値が正常化する前にビタミンK拮抗薬(VKA)投与を開始するべきではない。また、VKA投与は少量から始める(1C

3.4.2.
VKA
がすでに投与されているHIT患者では、ビタミンKを投与してVKAを拮抗する。

3.5.
HIT
と確定診断された患者では、VKA投与は非ヘパリン抗凝固薬の投与と5日以上(あるいはINRが目標域に達するまで)重複投与する。非ヘパリン抗凝固剤中止後はその効果が消失後にINRを再チェックする(1B

4.1.
血栓症を合併しないHIT患者では、ヘパリンやLMWHの継続、VKAの開始よりも、レピルジン、アルガトロバン、ダナパロイドの使用を推奨する(1C

4.2.
腎機能が正常で血栓症を合併しないHIT患者では、他の非ヘパリン抗凝固剤よりもアルガトロバン、レピルジン、ダナパロイドの使用を推奨する(2C

5.1.1.
急性HIT患者(血小板減少、HIT抗体陽性)、亜急性HIT患者(血小板数は回復しているがHIT抗体陽性)が緊急心臓手術を要する時は、他の非ヘパリン抗凝固剤やヘパリンよりもビバリルジンの使用を推奨する(2C

5.1.2.
急性HIT患者が緊急性のない心臓手術を要する時は、可能であればHITが寛解するかHIT抗体が陰性化するまで手術を延期する(2C

5.2.
急性HIT患者、亜急性HIT患者が冠動脈インターベンション(PCI)を要する時は、他の非ヘパリン抗凝固剤よりもビバリルジン(2B)またはアルガトロバンの使用を推奨する(2C

5.3.1.
急性HIT患者、亜急性HIT患者が血液透析を要する時は、他の非ヘパリン抗凝固剤よりもアルガトロバンまたはダナパロイドの使用を推奨する(2C) 

5.3.2.
HIT既往患者が血液透析を行う時やシャントをロックする時は、ヘパリンやLMWHよりも局所にクエン酸を用いることを推奨する(2C

5.4.
急性HITまたは亜急性HITの妊娠患者では、他の非ヘパリン抗凝固剤よりもダナパロイドの使用を推奨する(2C)ダナパロイドが使用できない時のみ、レピルジンかフォンダパリヌクスを推奨する(2C

6.1.1.
HIT
抗体が陰性であるHIT既往患者が心臓手術を要する時は、非ヘパリン抗凝固剤よりも、短期間ヘパリンを使用することを推奨する(2C

6.1.2.
HIT
抗体が未だ陽性であるHIT既往患者が心臓手術を要する時は、ヘパリンやLMWHよりも非ヘパリン抗凝固剤を使用することを推奨する(2C

6.2.
HIT
抗体が陰性であるHIT既往患者が心臓カテーテルやPCIを要する時の推奨は5.2と同じである(2C

6.3.
腎機能正常なHIT既往患者がHITに起因しない急性血栓を生じた時は、VKA効果発現までフォンダパリヌクスを治療量投与することを推奨する(2C

以上、項目の列記のみとなった。推奨理由および正確性を期すためには原著を参照されたい。

 また、わかりやすい解説として、国立循環器病研究センターの宮田茂樹先生の下記の日本語論文を参照いただきたい。

  宮田 茂樹. (2014). "【血栓症治療ガイドラインup-to-date】 その他(薬剤、検査、腎臓、糖尿病等)ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)の治療と予防に関するエビデンスに基づく米国胸部専門医学会(ACCP)ガイドライン第9." 血栓と循環 22(1): 233-236.


参考資料 (HITとは)


本ホームページ「HITとは」の参考資料です。

1.    岡本彰祐,池田康夫 監,松尾武文,尾崎由基男 編,HIT診療の手引き,HIT情報センター, 2004

2.    松尾武文 監,和中敬子,松尾美也子 編,Okamoto’s目で見るHITHIT情報センター,2008

3.    宮田茂樹,山本晴子,3. Heparin-induced thrombocytopenia (HIT)−診断と治療,最近の進歩,Annual Review 血液,高久史麿 他 編,中外医学社,199-210, 2008

4.    和中敬子,岡本歌子,ヘパリン起因性血小板減少症の診断と治療,臨床麻酔 33: 1597-1604, 2009

5.    和中敬子,HITに関する最近の知見,International Review of Thrombosis 6: 32-37, 2011

6.    Warkentin TE, Greinacher A, eds. In. Heparin- induced Thrombocytopenia. Fifth edition, New York, Informa Healthcare, 2012

7.    宮田茂樹,ヘパリン起因性血小板減少症,臨床血液 53: 1709-19, 2012

8.    宮田茂樹,ヘパリン起因性血小板減少症における最新の知見 血栓止血学会誌 23: 362-374, 2012

9.    Linkins LA1, Dans AL, Moores LK, Bona R, Davidson BL, Schulman S, Crowther M; American College of Chest Physicians, Treatment and prevention of heparin-induced thrombocytopenia: Antithrombotic Therapy and Prevention of Thrombosis, 9th ed: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines. Chest 141: e495S-530S, 2012.

10. Watson H, Davidson S, Keeling D; Haemostasis and Thrombosis Task Force of the British Committee for Standards in Haematology, Guidelines on the diagnosis and management of heparin-induced thrombocytopenia: second edition, Br J Haematol 159:528-40, 2012.

参考資料 (HITの検査室診断)

本ホームページ「HITの検査室診断」の参考資料です。

  1. Warkentin TE:Platelet count monitoring and laboratory testing for heparin-induced thrombocytopenia. Arch Pathol Lab Med 126:1415-23, 2002.
  2. 松尾武文 監,和中敬子,松尾美也子 編,Okamoto’s目で見るHIT,HIT情報センター,2008
  3. 和中敬子、松尾美也子:ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)抗体検査. 検査と技術, 38: 956-958, 2010.
  4. Warkentin TE, Greinacher A:Laboratory testing for heparin-induced thrombocytopenia. In Heparin-induced thrombocytopenia, 5th ed, edited by Warkentin TE, Greinacher A , Infoma Healthcare USA, New York, 2012, 272-314
  5. 阪田敏幸:新しい血小板第4因子-ヘパリン複合体抗体測定試薬とその特徴. 医学と薬学, 68: 547-555, 2012.
  6. 小宮山豊:HIT抗体. 臨床に直結する血栓止血学 (朝倉英策編), 中外医学社, 2013.
  7. 和中敬子: HIT抗体検査. スタンダード検査血液学(第3版)(日本検査血液学会編), 医歯薬出版, 2014
  8. Nagler M, Bachmann LM, Ten Cate H, Ten Cate-Hoek A:Diagnostic value of immunoassays for heparin-induced thrombocytopenia: a systematic review and meta-analysis .Blood 127, 546-57, 2016

参考資料 

第63回日本透析学会ランチョンセミナーでの発表スライド

 


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血栓止血研究プロジェクト

E-mail.kekken@th-project.org