ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の検査室診断
◆血小板減少からHIT抗体検出へ
HITの臨床は、ヘパリン開始5〜10日前後の血小板減少である。血小板数が、10〜15万/μl以下に減少か、またはヘパリン投与前値と比較し50%以下に減少を認める場合にHITを疑う。血小板減少は急激で、ヘパリンを中止しない限り進行し、3万〜6万/μlに激減することも稀ではない。ヘパリンの種類(未分画ヘパリン、低分子分画ヘパリン)、投与量や投与ルートには関係なく、留置カテーテルの洗浄に用いるような少量のヘパリン(500〜1000単位/日)でもHITが発症する場合がある。 従って、ヘパリンの使用歴のある者を始め、特に虚血性心疾患のバイパス手術後、整形外科的疾患の術後、糖尿病腎症の血液透析導入期など、発症のリスクを有する患者では、ヘパリン開始後に血小板数のモニターは欠くことはできない。血小板減少を認めた場合には、術後などに合併する他の原因による血小板減少を除外する。なかでも、ヘパリンの非免疫機序による血小板減少の鑑別に苦慮する症例もある。特にICUでは、基礎疾患によって血小板がすでに活性化されている病態では、ヘパリンにより血小板の活性化が増幅され、血小板減少がさらに進行しHIT類似の血栓症を併発することもある。 ◆HIT抗体の検出法
1. ヘパリン惹起血小板凝集法(Heparin-induced platelet aggregation) ヘパリン使用中に血小板減少が認められ、HITが疑われる場合、ヘパリン惹起血小板凝集能を測定する。測定方法は、健常者の多血小板血漿(platelet rich plasma; PRP)に患者血漿(platelet poor plasma; PPP)を1:1の割合で混和し、惹起物質としてヘパリン(終濃度0.1〜1.0単位/ml)を添加し、血小板凝集を観察する。 HIT抗体陽性の場合は、0.1〜1.0単位のヘパリン添加で凝集が起こり、50〜100単位の高濃度のヘパリン添加で凝集が解離する(非免疫性のヘパリン凝集は、ヘパリンの用量依存性に凝集が亢進するためHIT type Iと鑑別することができる)。 本法は血小板凝集能測定装置があれば短時間で結果を出すことができるが、健常者PRPを用いるため、健常者のPRPを選択する際の注意がいる。ドナーが抗血小板剤を服用していないことも大切ではあるが、ドナーのPRPが陽性HIT血漿に対して十分に凝集を示すことが求められる。本法によるHIT抗体の検出は、特異度が高いため陽性を証明すればHIT診断につながるが、陰性だからといって否定はできない。また同種抗体の存在による非特異的凝集による偽陽性反応を除外する。 
2. ELISA法 ヘパリン依存性抗体は、主として抗ヘパリン・PF4複合体に対する抗体であることが解明され、その抗体の検出が行なわれるようになった。最近では、測定がキット化され、ELISA法(Asserachrom HPA;Stago社、PF4-Enhanced;GTI社)による抗ヘパリン・PF4複合体抗体の検出が行なわれている。ヘパリン・PF4複合体(GTI-PF4はヘパリンの替わりにスルホン化ポリビニールを使用)を抗原として用い、被検検体中の抗ヘパリン・PF4複合体抗体と免疫複合体を形成させ、形成された免疫複合体に酵素標識抗体を反応させ、比色定量する。 HITにおける本抗体の陽性率は85〜90%である。これは、IL-8やNAP-2に対する自己抗体がHITと類似の血小板活性化を引き起こすことも一因となっている。しかし、HITで出現するHIT抗体は血小板減少の2日前頃に出現し、ヘパリン使用を中止すると徐々に低下し、50〜85日くらいで消失する。このため、検体採血のタイミングが重要である。症例によってはヘパリン中止後10日前後で抗体が消失することもあるので、臨床的にHITを認めたならば、ヘパリンを中止し、ただちに確認検査を実施するための採血(血漿・血清いずれも可)を行うことが大切である。臨床的にHITであるにもかかわらず、採血のタイミングが遅れたためHIT抗体を検出することができなかった症例もある。 HITの検査室診断にはヘパリン惹起血小板凝集法とELISA法の両者を用いることが勧められている。
◆まとめ 未分画ヘパリンであれ低分子分画ヘパリンであれ、ヘパリン使用中の血小板数の30〜50%以上の急激な減少と十分なヘパリン投与にもかかわらず血栓症の合併、増悪、体外循環回路の凝血による閉塞の症状を示す場合には臨床的にHITと考え、検査室診断を開始する。 まず、HIT抗体の活性を測定するため、ヘパリン惹起血小板凝集を実施する。同時に、凝固亢進状態の有無を検査する。HITでは、血小板の活性化に伴ってトロンビンが産生されるために種々の凝固分子マーカー(D-ダイマー、プロトロンビンフラグメントF1+2、トロンビン・アンチトロンビン複合体など)が異常に増加し、あたかもDICを思わせる所見を示す。ヘパリン惹起血小板凝集が陽性でDIC様所見があれば、HlTと検査室診断を行いヘパリンの中止と代替の抗凝固剤の使用を臨床サイドに連絡する。たとえ非免疫性HITであっても、取りあえずヘパリンを中止しHIT抗体の結果が判明するまで代替の抗凝固剤を使用するとよい。また、判定に苦慮する症例では、ヘパリン惹起血小板凝集とELISA法によるHIT抗体の変動を注意深く経過観察する。 (兵庫県立淡路病院 松尾美也子) 
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