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ヘパリンとその問題点

 

1915年当時Johns Hopkins大学の学生であったMacLeanはリン脂質のケファリンを精製する際に、抗凝固作用のある物質を発見し、MacLeanを指導していたHowellによって更に研究が進められ、この物質が当時は肝臓に多く存在すると考えられたためヘパリンと名付けられた。

ヘパリンは今日では、抗凝固剤として不動の地位を占めている。現在本邦において用いられている主なヘパリンは未分画ヘパリン(unfractionated heparin: UFH)と称され、ブタの腸粘膜からの抽出された分子量5,000〜30,000ダルトンから成る酸性ムコ多糖体の混合物である。UFHは、抗凝固剤として種々の作用を持っているが主要なのは抗トロンビン、抗]a作用である。UFHがアンチトロビンV(ATV)と複合体を作り、トロンビンやXaの他、]Ua、]Ta、\a、Za活性を阻害する。

UFHは優れた抗凝固剤であるが、以下のように種々の問題点も多く、それらを理解した上での使用が必要である。

抗凝固作用の個人差

 UFHは血小板や血管内皮に直接作用し、血小板凝集の亢進や血小板第4因子(PF4)等の分泌を刺激し、血管内皮から主として組織因子系凝固阻害物質(TFPI)を血中へ遊離させる。PF4はUFHと結合し、抗凝固作用を中和し、TFPIは外因系に対し阻害作用を示し、抗凝固作用を促進するため、ヘパリンの抗凝固作用には個人差が生じる。

  

フィブリン固相中のトロンビン阻害

UFHは分子量が大きいためフィブリンに結合している活性を持つトロンビンに作用することはできず、その抗凝固作用は、新しい血栓の形成阻害に限定されてしまう。

 

ヘパリン抵抗の病態

UFH投与量は、aPTTで1.5〜2.5倍の延長を目標として調節するが、UFHの35,000単位/日以上の投与で、aPTTの治療域の下限(1.5倍以上)に達しない例を「ヘパリン抵抗」という。ヘパリン抵抗を示す症例の原因精査のためのヘパリン抵抗試験は保険適応となっている。

ヘパリン抵抗性は様々な病態で起こるが、日常臨床上はATVの低下がヘパリン抵抗と関係が深い。UFHの抗トロンビン作用は、ATVの存在下に出現するため、ATVが低下状態では作用が弱く、血中のATVが60%以下に低下すると、aPTTを治療域に上昇させるために35,000単位/日以上のUFHが必要となり、ヘパリン抵抗を示す。

ATVの欠乏は、先天性、後天牲(敗血症、多発外傷、火傷、悪性腫瘍、体外循環)に起こる。また治療のため大量のUFHを長期間使用すると、UFHによりATVが消費されて低下するためUFHの使用中はATVの血中レベルのチェックが必要となり、ATVが60%以下に低下すると逆に静脈血栓の発生が増加することとなる。

Heparin CofactorU(HCU)は、ATVに比較してマイナーであるがヘパリンやデルマタン硫酸によってトロンビンの中和速度が加速する。通常は、血管内皮下まで障害がおよび、デルマタン硫酸の露出に伴いトロンビン中和作用を示す。先天性HCU欠乏症で、UFH投与下で冠動脈形成術を施行したところ短期間で再狭窄を反復したが、分子量が小さい合成抗トロンビン剤であるアルガトロバンを使用したところ、再狭窄が認められなかったことを経験しており、UFHはHCU低下では十分なATVの存在下でも、形成されたフィブリン塊のトロンビン処埋が遅れ再狭窄に至ることが推測された。つまり、UFHはATV、HCUというcofactorの存在なくしては抗凝固作用を発現しないという欠点を有する。

 

顆粒球工ラスターゼ

 顆粒球由来のエラスターゼは、ヘパリン存在下では、ATVのような凝固線溶系蛋白を強力に分解し凝固亢進状態を招く。高エラスターゼ症例では、ヘパリン投与によりATVが分解され、期待される抗凝固効果が得られない可能性がある。

 

ヘパリン起因性血小板減少症と血小板刺激作用

ヘパリン起因性血小板減少症は、ヘパリンの副作用として出血に次ぐ重大なものであり、へパリンの投与により血小板減少が引き起こされる病態である。UFH自体に血小板刺激作用があり、in vivoでヘパリンの治療域濃度でADPやトロンビン受容体アゴニスト刺激によりP-セレクチンやGPUb/Vaの発現を介して血小板凝集が増強する。正常人でもヘパリン添加により凝集が惹起されることが観察されている。

 

(兵庫県立淡路病院 鈴木俊示、松尾武文)

 

 

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